「不夜脳-脳がほしがる本当の休息」
・・・・・・・・・・・・・河辺啓二の勉強論(28)

〈やはり読書は楽しい〉
ふだんは、就寝時に布団の中で本を片手に眠りに落ちる幸福を感じる日々である。ところが、年末年始は、しばし仕事から離れて、真っ昼間からたっぷりと好きな読書ができる。
(先日、顔馴染みの患者さん(中年女性)から「先生は何がお好きですか」と尋ねられ、「う~ん、読書と勉強かなぁ」と答えてしまったが、実はその患者さん、私に何か好物の食べ物を差し上げようと思って訊いたのだった。想定外の返答に彼女はにっこりせざるを得なかったようだ。)
今回も何冊か読んだ(私は遅読)が、最も印象に残ったのはこの本だ。何しろ直に脳を触って切っている脳外科の先生が脳について述べた著書である。一般向けに書かれているからわかりやすく、また、非常に勉強になる本だと思う。再読に値する名著だろう。
読者に人生をよりよく生きていくことをいくつも示唆してくれている。そのうち、特に印象に残ったことを記してみよう。
〈脳細胞が減ることを恐れなくていい〉
よく言われたことに、1000億ある脳細胞は毎日10万個ずつ減少すると。ここでスーパースター大谷翔平が登場。1000億円の契約金を1日10万円使ったとして何年でなくなるか?答えは約2740年だと!脳細胞減少を不安がる人には「何年生きるおつもりですか」だということになる。笑ってしまった。
〈脳は刺激不足で廃れていく〉
脳は自発的に常に活動していて、外部からの刺激が、それを「抑制」している。つまり、脳は常に幻覚を作っている。ところが外部からの刺激が入るとそれを処理するために脳が活動せざるを得ず、幻覚を見る機会が奪われるのだということらしい。刺激を遮断すると幻覚を見るのは「正常な」脳の機能ということになる。
〈日本に認知症が多い理由〉
「認知症大国」=「長寿国」が成り立つ。実は、「認知症患者が多い国トップ3」=「長寿国トップ3」だと。そのトップ3は、日本、ドイツ、イタリアらしい。(奇しくも第二次世界大戦時の「枢軸国」日独伊同盟かぁ~)
〈認知症リスク因子〉
認知症のリスク因子が14ある。
○外傷、生活習慣病などの脳に有害な病気を避ける(ほとんどが、脳出血・脳梗塞・狭心症・心筋梗塞等、動脈硬化が引き起こす疾患の危険因子と合致している)
・頭部外傷 ・喫煙 ・過度な飲酒 ・大気汚染 ・高血圧
・糖尿病(糖尿病の人はそうでない人より認知症発症リスクが2倍近い)
・高コレステロール血症 ・肥満
○適切な刺激を入れ続ける
・教育不足 ・運動不足 ・難聴 ・視力低下
・抑うつ ・社会的孤立
注目すべきは、これらの中に「睡眠不足」は入っていないということだ。
〈脳を「運動」で鍛える〉
有酸素運動やリズミカルな全身運動が脳に良いタンパク質BDNFが増加する。更に、骨を刺激する「ジャンプ」でオステオカルシンというホルモンが増えて記憶力が改善するらしい。
〈間欠的断食で脳を鍛える〉
「飢餓」の時間が体にいいと言われている。脳にとっても同様。
ア:24時間食べない日を、1日おきにつくる
イ:週に1回、24時間何も食べない日をつくる
ウ:1週間に2日だけ、カロリー制限(500~600kal)する
エ:16時間何も食べずに、8時間の間だけ食べてよいとする
どれも実行困難だが、エならときどき(いや、たまには)できるかもしれない。とにかく、満腹は「異常事態」であり、体に強い負担をかけている、という認識は極めて重要だと思う。
(空腹が身体によいといえば、空腹時にサーチュイン遺伝子という抗老化遺伝子(若返り遺伝子)が活性化されるという説がありますね)
〈脳によい食材〉
脳に糖分は不要どころか大敵。おすすめは、桑の葉(マルベリー)、ジャーマンカモミールティー、そしてクルミだとか。実は、クルミ、アーモンド、カシューナッツ、ピーナッツといったナッツ類は、私の愛好する食品だ(ミックスナッツ)。空腹をある程度満たしてくれるし、日常的にも、糖尿病や肥満の患者さんにもすすめているものである。
〈外国語学習で脳を鍛える〉
「我が意を得たり」第2弾。上記のナッツもそうだが、当該著者がすすめる外国語学習も私が実際に行っているものだ。第2外国語学習の効果は、認知症予防になり、脳卒中などのダメージに強い脳を鍛えることができるという。「知らない言語」を学ぶと「左脳」も「右脳」も活性化するとのこと。私は、今まで、英語、ドイツ語、フランス語を学習し、これらの検定試験にそれぞれ1級、準1級、準2級合格したほか、検定試験受けるほどではないが、スペイン語、ポルトガル語、中国語、韓国語も勉強したことがある。4月からNHK教育ラジオの新しい講座が始まるし、また、英語以外の言語学習を始めようかしらと考えている。
そういえば、つい先日のテレビで、たまたま小椋佳が出ていたので見入ってしまった。
「人間にとって一番贅沢な遊びは学びである」と小椋佳は言う。素晴らしい言葉だ。実際82歳の今もフランス語やピアノなど新しいことを学んでいる。う~ん、やはり、私もフランス語学習再開かなぁ・・・。
(彼が1993年~1995年、一度卒業した東大法学部に再入学(学士入学)し在学していたが、1989年~1995年、やはり2度めの東大在学中であった私と一時期かぶっている。実際、ある夏の暑い日、本郷のキャンパスであちらから汗をふきふきこちらのほうに歩いて来る大柄な中年男性を見かけ「あれ、小椋佳では」(東大再入学のことは聞いたことがあった)と思ったが、人違いだとご迷惑だし・・・などと思って声を掛けずじまいだった(ちょっと後悔)。彼は2度目の法学部卒業後も文学部、更には大学院にも行って勉強したらしい。)
〈読書で脳を鍛える〉
「我が意を得たり」第3弾。やはり読書は脳にいいのだ。ある研究では、「週1回の読書」でも認知機能低下リスクが46%低下したらしい。読書は手軽に取り組める、脳を鍛える有効な手段だ。非常に広範な知的活動に関連する部位を同時に刺激し、脳の知的活動を大きく強化することができるという。ただ、私の好きな教養書やビジネス書よりは、没入できるような小説がよいらしいが。
〈疲れた脳を癒やす寝方〉
「脳の掃除」は、臥位で起こりやすいが、特に側臥位(横向き)が、最も老廃物の除去効果が高いらしい。側臥位でも右側臥位(右を下にした横向きで寝る)が、最も脳の静脈の流れがスムーズだという。「我が意を得たり」第4弾?私は、腰痛対策でいつも側臥位で寝ている。左側臥位が多いかな。なるべく右側臥位にしてみよう・・・。(脳から頚静脈へ流れる太い静脈(横静脈洞)には左右差があって、右のほうが太い人が多いとのこと)
〈森林浴刺激〉
脳のリフレッシュに森林浴がおすすめだと。科学的要因として最も関与しているのは「フィトンチッド」(植物が外に向けて分泌している様々な揮発性物質)だとされる。あぁ、40年以上前のことを思い出した。私が農林水産省に入省し、最初に配属されたのが林野庁林政課。そこで2年以上働いていたが、1年めか2年めかのとき、「森林浴」「フィトンチッド」の喧伝をさんざんやった(させられた)記憶がある。今でも評価されているのかな。少なくとも脳専門の大先生がすすめるのだから間違いないね。
(ただ、昨今のクマさん事情で、森林には行きづらくなっている。♪あるひもりのなかくまさんにであった♪なんて歌えないですね)
〈「安心刺激」で入眠する〉
もう1つ「我が意を得たり」があった、第5弾。脳は「予測的中」に快感を覚えるという。「予定調和の物語は、予測が裏切られずに報酬系(ドーパミン回路)が満たされ続けるため、ストレスが少なく、脳が心地よい。先が読めると、脳の負担が減るのだ。」
漫画でも小説でもテレビドラマでも、「お約束のパターン(ワンパターンってことか)」が「安心刺激」になるということだ。予測ができるストーリーに接して脳が癒やされる現象である。テレビドラマのわかりやすい勧善懲悪ものはその典型ということ。ここでは「ドクターX」の例を挙げていたが、ワンパターンの勧善懲悪ものといえば、なんと言っても私の大好きな「水戸黄門」だ。なるほど、録画した「水戸黄門」を夜に観て仕事で疲れた私の脳は癒やされているのだと感じる。


