受験秀才でないと医師になれないのか
・・・・・・・・・・・・・河辺啓二の医療論(40)

今年も受験シーズンが終わったが、いつもながら医学部入試の厳しさの話を聞く。昔は、国立大学の医学部に比べ多くの私立大学の医学部の入試は容易であったようだ。寄付金で合格基準に足りない点数を補っている医学部もあると聞いたこともあった。
今は全く違う。入試偏差値が大きく上昇し、学力がかなり高くないとどこの医学部も入れなくなった。かつて高学力でなくても入学できた私大医学部の偏差値も、今や全国トップの難関大理工系と肩を並べるかそれ以上に高くなっている。この異常とも言える医学部人気は何なのだろう。テレビで頻繁に放映される医療ドラマの影響か。昔から言われる社会的地位の高さや高収入が依然として信じられているためか。医学部に入った後も、実習や試験で他学部(特に文系)よりはるかに多忙な6年間を過ごさなくてはならないのに、だ。
医学部入試の難化に対して「頭の悪い医者になんか診てもらいたくない」という肯定的な意見の患者さんもいる。しかし、ここまで難化することが一般国民にとって果たしてよいことなのだろうか。医学部入試の勝負どころは、数学・理科・英語だろう。私は高偏差値の国立大医学部卒だが、入試のために必死に勉強した数学・物理・化学の知識が医療現場で役立った記憶が殆どない。何十年も前に寄付金のお陰で入学できたのかもしれない医師が臨床現場では立派な仕事をしている例は多数あるはずだ。つまり、入試学力と臨床能力は全く比例しないのだ。
将来医師として社会貢献できる可能性のある若者たちを単に(医師の資質とはほぼ無関係な)数学や理科の学力で排除してしまう、現行の学力偏重の医学部入試がこのままでいいのだろうか。(各大学が行っている面接試験に限界あるし、医師として求められる人間性や人生哲学を短時間で見極めることは困難だとは思うが)