納税者諸君、「ザイム真理教」を読みましょう!

・・・・・・・・・・・・・河辺啓二の政治・行政論(39)

〈がんばれ、森永さん〉

 2023年、実に名著が世に出た。この半年で売れ行きがいいらしい。「ザイム真理教」、副題が「それは信者8000万人の巨大カルト」である。大手出版社数社から軒並み出版を断わられたという。政権批判ができないんだと。信じられないが、日本は言論の自由のない、中国かロシアのような国家になってしまったのだろうか。最後に出版を引き受けた三五館シンシャだけがホネのある出版社なのだろうか。

 著者の森永先生、最近、膵癌ステージ4を公表されたが、こんな本を書ける超逸材だけに是非ガンを克服して次々と素晴らしい作品を著してほしい。

〈名著の内訳〉

当該名著は、以下のような章立てとなっている。

第1章 ザイム真理教の誕生

第2章 宗教とカルトの違い

第3章 事実と異なる神話を作る

第4章 アベノミクスはなぜ失敗したのか

第5章 信者の人権と生活を破壊する

第6章 教祖と幹部の豪華な生活

第7章 強力サポーターと親衛隊

第8章 岸田政権は財務省の傀儡となった

〈第1章 ザイム真理教の誕生〉

 冒頭「私は大蔵省の「奴隷」だった」で、日本専売公社(※現日本たばこ会社)社員の著者と大蔵省(現財務省)との関係が赤裸々に語られている。大蔵省直轄公社社員の彼は、確かに「奴隷」的扱いをされていたのだ。一般省庁職員の私でさえ大蔵省の役人の横柄さには閉口していたくらいだから、さもありなんと納得してしまった。

※今は「死語」となったが、当時「三公社五現業」(三公社=国鉄、電電公社、専売公社、五現業=郵政省の郵便事業、農林水産省の林野事業、大蔵省印刷局、大蔵省造幣局、通産省のアルコール専売事業)が存在し、社会的に大きな役割を果たしていた。

 更に、経済学というか経営学に疎い法学士集団の財務官僚たちは財政均衡主義に凝り固まっており、彼らは権力の座についた政治家たちにザイム真理教の布教活動を行い、信者を増やしているという表現は、誠に的確である。

〈第2章 宗教とカルトの違い〉

 宗教は「こうすれば幸せになれる」というプラス方向の説教が主となるのに対して、カルト(cult)は「こうしたら、こうしなかったら不幸になる」とマイナス方向の説教を行い不安をあおってマインドコントロールに近づけていくものだという。辞書には「狂信的な崇拝」と書かれているが、森永先生の説明のほうが納得できる。

〈第3章 事実と異なる神話を作る〉

 財務省が巧妙に「日本の財政は破綻状態だ」と財政均衡主義の正当性を国民に吹き込んで染み込ませている、その欺き方を教えてくれている。日本はそんなに大きな「借金」を抱えていない、なぜなら巨大な資産を保有しているからだという。このことは、元財務官僚の髙橋洋一氏も著書などでよく主張している話だ。適切な方式を用いれば、国が保有する不動産の殆どが売却できるらしい。

 この章で最も「なるほど、そのとおり」と感じた件(くだり)がある。「本当に売却してしまったほうがよい不動産」として、国家公務員住宅や議員会館を挙げている。

「ILO(国際労働機関)は、社宅は労働者の思想統制につながるとして、提供しないように呼びかけている。かつては多く存在した民間企業の社宅は、いまではほとんど姿を消している」とのこと。なるほど、最近「社宅」ってあまり聞かないと思った。

「ところが、公務員住宅だけが延々と存在し続けている。それは議員宿舎も同じだ。(中略)政治家や官僚がとてつもない低家賃で住宅を借りることができるという政府の利権が、余分な資産を抱えることの一つの動機になっている。その利権を政府は手放さない。」まったく、そのとおりだ。

 結論としては、現在の日本政府の抱える本当の借金の額は、公表されているものの3分の1程度で、先進諸国のそれとほとんど同じらしいのだ。

〈第4章 アベノミクスはなぜ失敗したのか〉

 安部元総理は、戦後初の、そして自民党唯一の「反財務省」政治家だったらしい。官邸官僚トップに異例の経済産業官僚を据えたほどである。自著で「財務省は常に霞が関のチャンピオンだったわけです。(中略)内閣支持率が落ちると、財務官僚は、自分たちが主導する新政権の準備を始めるわけです。「目先の政権維持しか興味のない政治家は愚かだ。やはり国の財政をあずかっている自分たちが、一番偉い」という考え方なのでしょうね。国が滅びても、財政規律が保たれてさえいれば、満足なのです。」と述べているという。さすが、長期首相を務めた方だけに財務省の本音を看破している。

 われわれ国民がいまだ忘れられない問題は、森友学園の国有地格安売却疑惑だ。決裁文書の改竄、更には正直職員の自殺まで引き起こした財務省の組織的大犯罪に対する「裁き」はないものか。安部元総理は、自著で「森友学園の国有地売却問題は、私の足を掬うための財務省の策略の可能性がゼロではない。」と書いているくらいだから、可能性はゼロどころか、かなり高いと推測される。

〈第5章 信者の人権と生活を破壊する〉

 欧州各国に比べ、日本の国民負担率(国民所得に対する税金や社会保険料等社会保障負担の割合)はあまり高くないように見える。しかし、欧州は、社会保障や教育のサービスレベルが日本よりはるかに高いらしい(学費負担や公的年金)。つまり、日本は、社会保障や公的サービスの給付水準が低いのに、税金や社会保障負担の大きい「重税国家」になっているというのだ。

 確かにこの30年間で、収入は大して増えないのに、税金は増えたが控除額は減った、医療の窓口負担は増えた、年金保険料も介護保険料も増えた。これじゃ日本経済が成長しないのも当たり前だ。「ザイム真理教は、国民生活どころか、日本経済まで破壊してしまったのだ。」

〈第6章 教祖と幹部の豪華な生活〉

 この章では国家公務員の厚遇ぶりが批判されている。確かに、森永氏の指摘のように、全体の国家公務員の年収は民間平均よりかなり高いし、定年延長や天下りなど恵まれていることは確かだ。特に財務省の天下り先の豊富さはすごい。

ただ、私は33歳の課長補佐で退職したから、「恵まれた」実感は皆無だ。給与も、年収数百万円で、同い年の大企業社員よりずっと安かったし、超過勤務もひどかった(ブラック霞が関)。

 しかし、唯一このザイム省が霞が関でダントツに勤務条件が恵まれていることは、他省庁の官僚たちには知られていた。森永先生はご存じないかもしれないが、私の記憶では、以下のとおり。

 第3章の国家公務員住宅の件だが、当時の大蔵省は国有財産管理官庁ゆえか、都内の一等地に官舎を持っていた。一般省庁の私の同期達は遠く千葉や埼玉の官舎から通っていた。現に、医学生時代、大蔵官僚の息子の家庭教師のアルバイトをしていたが、その住まいは新宿の官舎だった。

 残業手当も予算を握る大蔵官僚達はずいぶんもらっていた。一般省庁なんてどんなに長時間残業しても、「超過勤務手当」は上限額しか頂けないのに、大蔵省は本給を超えるほどもらっている職員もいたとか。私の最多忙月は、残業200時間超に対して手当は5万円であった。

〈第7章 強力サポーターと親衛隊〉

 戦後の日本において、大手マスメディアは公明正大に国民に情報提供するものだというのは幻想だったか。ザイム真理教サポーターその1は、大手新聞だと。なぜ大手新聞は財務省に忖度した記事を書くのかというと、1950年代~70年代に各大手新聞本社が東京都心の一等地の国有地の格安払い下げを受けているのだ(モリトモのことあまり言えないよな~)。更に、消費税率が10%に引き上げられた際に、定期購読の新聞に、電気・ガス・水道と同じ「生活必需品」として軽減税率が適用されたことも怪しい限りだ。

 ザイム真理教サポーターその2は、富裕層だと。富裕層を味方につけておけば、財務省が天下り先にできるし、政治的な力を持つ富裕層に自分たちを守ってくれそうだから。所得が1億円を超えると、所得税・社会保険負担率が急激に下がるというのだ(保険料の負担上限等のため)。「富裕層優遇」税制の存続理由は、高級官僚達が退官後に天下りの「渡り鳥」して、その度に巨額の退職金を得るのに税率を低く抑えたいためだとか・・・。

 そして、最強の親衛隊・国税庁。財務省が、最強の官庁であるのは、予算編成権よりもこの徴税権のためではないか。富裕層もエリートも、そして大物政治家も国税庁には盾突き難い。このことがザイム真理教への批判が世に出ない最大要因となっていることは確かだ。国税庁を財務省から分離するには、少なくとも政権交代が必要だろうな・・・。

〈第8章 岸田政権は財務省の傀儡となった〉

 結局のところ、岸田首相もザイム真理教に洗脳されたような状態になってしまったという。特に、コロナ対策は、岸田政権財政緊縮路線が色濃く表れたようだ。国民の生命より財政が重要なのだろうか、コロナ対策を縮小すれば、莫大な財政負担が削減できるというザイム真理教信者ぶりを遺憾なく発揮している。

 いまの政府の戦略は「死ぬまで働いて、税金と社会保険料を払い続けろ。働けなくなったら死んでしまえ」というものだ、と本著の最後のほうで、森永先生は吐露している。