最も好きな漫画家は弘兼憲史

〈少年時代の夢〉

少年時代は、手塚治虫に憧れていた。将来なりたい職業は漫画家だった。19歳時に東大に入学して漫画倶楽部に入ったのも少年時代の夢を少しでも実現できるかもという極めて淡い期待があったからであろう。しかし、自分よりはるかに上手な絵を描く部員仲間に敵わないと思い、また東大OBに成功した漫画家はいないし、などとネガティブな気持ちが高まり、いつの間にか部員たちとの麻雀に熱狂するようになってしまったものだ(マンガクラブというよりマージャンクラブか)。

〈弘兼作品との遭遇〉

後年、年を取って、漫画の単行本を時折買って読むようになり、つくづく「いいなぁ、おもしろい」と感じる漫画家は弘兼憲史である。いつ頃から彼のファンになったのだろうか、はっきりとは思い出せない。官僚として多忙だった1980年代に漫画を読む余裕があったかなぁ。医学生だった1990年代前半頃かなぁ。まず、「弘兼憲史」の名前を認識したのは、『人間交差点』だった。原作は彼でなく矢島正雄の作品だが、そのタイトルどおり、様々な人間が交差する物語で心に残るストーリーが多かった。

〈代表作『島耕作』〉

『人間交差点』の後は、自らがストーリーを与えた名作品が続く。まず、ヒロカネの名を一躍世に知らしめた代表作『課長島耕作』、そしてそれに続く『島耕作』の超ロングシリーズ(今年でなんと40年目)。仕事ができて、英語堪能、更に女性に大モテの島耕作(←多くのサラリーマンの憧れであるに違いない)は、課長⇒部長⇒取締役⇒社長と上り詰めて行く。並行して係長時代や学生時代にバックして描くシリーズもあった。更に、⇒会長⇒相談役となり、今年の春から50年以上勤めた大手家電メーカーを辞めて社外取締役となる。作者弘兼憲史と同じ年齢を歩ませているところが実におもしろい。弘兼憲史曰く「(『島耕作』の)連載を終えるのは自分が描けなくなった時」らしい。人生100年と言われる時代、末永い連載を期待するものである。

〈イチ押しの『黄昏流星群』〉

この何年もの間、私が、書店で新しい単行本が出ていれば買うヒロカネ作品といえば、『島耕作』、そして『黄昏流星群』である。この作品では、人生に疲れた様々な中高年の男女の恋愛が描かれている。ストーリーごとに主人公が違うのは『人間交差点』と同様である。私自身、中高年の恋愛に対する憧れは全くないが、やはりとてつもなくおもしろい。1995年から連載継続中というから、こちらも超ロングシリーズで、途中に、『島耕作』でもあったように、テレビドラマ化や映画化もされたようだ。

〈政治漫画『加治隆介の議』

『加治隆介の議』もよかった。この作品は、当院待合室の本棚にヒロカネ単行本が多数置かれてあるのを見た出入りの薬剤業者から勧められたものである。当時既に連載は終わっていて、古本屋に行って全20巻を購入したのだ。漫画作品としては珍しく政治家が主人公。国会議員だけでなく、官僚も重要な登場人物となっていて、ずいぶん楽しめた。2000年頃、この作品をテレビドラマ化しようと若手国会議員たちが計画したが頓挫したらしい。

〈ヒロカネ作品ほぼ全部制覇?〉

 ほかにも『ハロー張りネズミ』も全巻古本で買って読んだ。まぁまぁよかった。やはり原作が他人(猪瀬直樹元東京都知事)の『ラストニュース』もおもしろかった。こう振り返ってみれば、私は、弘兼憲史の主な作品全て読破したと思う。現に、私の本棚等に『人間交差点』から始まる夥しい数の単行本がいまだ保管されているのだ。