クスリが手に入らない!
・・・・・・・・・・・・・河辺啓二の医療論(41)

〈ますます劣化する日本の医療〉 この患者さんにはこの薬剤がベストと思って処方、すると薬局から「その薬は出荷調整で在庫がありません」。更には、点滴に入れる注射薬も、今まで何十年も使用していたものが「出荷調整」で在庫僅少だと。「出荷調整」どころか、全く手に入らない、それどころか製造している会社がない薬剤までも出てきている。つくづく私の古巣・霞が関のお偉方の行う現場を知らない医療行政のお粗末さに腹立たしい日々を送るこの頃である。 昨今のホルムズ海峡→ナフサ不足の影響は皆無ではないが、政府が薬価改定で古くからある薬剤の薬価を「考えなし」で毎回引き下げてきたことが主因であるに違いない。霞が関の役人どもは、行政対象の現場を知らない。その典型の一つが農林水産省で、昔から「NO政」と揶揄されたものだ。医療行政も同様だ。

〈製薬会社が儲けたのは昔の話〉 製薬会社は高給のイメージがあった。そのイメージに縛られる政府は、薬価をどんどん下げている。診療報酬もそうだが、クスリの価格も、保険診療である限り、国が決めたものに従わなくてはならない。昔からよく使われるクスリ、例えば咳止め剤とか胃腸剤とかは1錠当たりたったの5~6円に下がっている。これではメーカーの利益は乏しく、安い薬剤は製造撤退となる。彼らを責めることはできない。彼らは私企業であり、利益のないものを生産したくないのは当然の行動だ。「親方日の丸」の連中(かつての私もそうだった)はわかるはずがない。先日、ある薬局でその入手困難の胃腸剤と同じクスリがOTCとして売られていたのを見つけ、その値段に驚愕した。政府価格の薬価が6.1円/錠に対し、OTCは127.5円/錠だった。ちょっと差があり過ぎの感もあったが、これじゃあ、保険薬価のクスリは製造しないよなぁ・・・。民間企業に「お国のために安い価格のままで製造して」と(戦時中じゃあるまいし)政府が命令できるわけがない。 (はっきりした記憶ではないが、二十年くらい前だったかな、定番の麻酔注射薬がやはり薬価が下がり過ぎて入手困難になり、麻酔科学会だか団体が政府に猛抗議して元の事態に戻ったことがあったような・・・。)

〈かと思えば超高額な薬剤が・・・〉 製薬会社は、民間企業であるゆえ、利益追求を行う。もちろん利益追求だけでなく、難病に苦しむ人たちを救うために莫大な費用と時間をかけて、新しい薬剤を開発する。本年2月、3億円を超える薬価の注射薬が承認された。これまでの最高薬価1億6700万円を抜いてトップの薬価である。前述の薬価6.1円の胃腸薬の5千万倍の薬価である。

↑これらは極端に高価な薬剤だが、ほかにも抗癌剤(分子標的治療薬)や免疫疾患治療薬(生物学的製剤)などは、単価何十万円~何百万円のものはざらにあるのだ。そりゃ5、6円のクスリよりそういう超高価なクスリのほうが利益もはるかに多いから、メーカーはそちらにシフトするよね・・・。 〈ついでに開業医嘆き節〉 診療報酬大幅upなんて政府は喧伝するけど、物価が10%も20%も(それ以上)上がっているのにたったの3%upじゃ焼け石に水。医療機関の赤字や倒産のニュースはよく報じられているところ。この状態が続けば開業医のなり手が減っていくことだろう。診療報酬は増えない、そのくせ役所に提出する書類は増加の一途(←これ、めんどくさい!)、土日も書類作成等の事務処理で多くの時間を費やしている。古巣・霞ヶ関のオソマツ医療行政には溜息の毎日なのであります・・・。

