さらば、谷村新司

・・・・・・・・・・・・・河辺啓二の音楽論(25)

〈谷村新司と握手〉

 谷村新司が亡くなった。一応アリスファンである私はショックである。アリスのコンサートも、谷村新司のソロコンサートも、堀内孝雄のソロコンサートも行ったことがある(もちろん、コロナ禍よりかなり前のこと)。

 谷村新司のコンサートではソロのヒット曲、アリスのヒット曲を惜しみなく披露してくれたが、印象的だったのは、客席を回って一人一人握手をしてくれたことだ。運よく前方のいい席にいた私も握手の対象にしてくれて、躊躇する私を「ほら、手を出しなよ、握手しようぜ」みたいな顔で促してくれた。ただ、この柔和さとは反対に、間近に見たこの大スターの眼光は鋭かった。これが天才の眼なのだと感じたことを覚えているが、大スターの手が柔らかかったか硬かったか、感触は忘れてしまった。

 彼の作詞・作曲の才能、歌声のすばらしさは今更言うまでもないが、コンサートで間近に見て感じたのは、スタイルの良さだ。顔面は決していわゆる美男子ではないが、お腹は全く出ておらず、すらりと伸びた脚はカッコよかった。

〈アリスとの出逢い〉

 そもそも、私がアリスに興味を抱いたのは、若き工学部生時代に親友Mから「帰らざる日々」のシングル盤をもらってからである。当時のことだから、もちろんアナログ盤だが、何回も聞いたものだ。こうしてアリスには他にもいい曲があることを知った次第だ。

(このように、もらったレコードをきっかけにファンになった例として、やはり若き(工学部より前の)教養学部生のときに親友Fから譲ってくれたビージーズのLPがある。)

〈Composer谷村新司と堀内孝雄〉

 谷村新司が作った曲、アリスの曲で、ヒット曲、私の好きな曲を並べると以下のようになる。

●作詞・作曲 佐竹俊郎

「今はもうだれも」

●作詞・作曲 谷村新司

「涙の誓い」「帰らざる日々」「チャンピオン」

「いい日旅立ち」「昴―すばるー」

●作詞 谷村新司 作曲 弾 厚作(加山雄三)

「サライ」

●作詞 谷村新司 作曲 堀内孝雄

「冬の稲妻」「遠くで汽笛を聞きながら」「ジョニーの子守歌」

「秋止符」「紫陽花」「君のひとみは10000ボルト」

作詞については、堀内孝雄は谷村新司に遠く及ばないと卑下しているようで、堀内作詞の曲は殆どない印象だ。だが、堀内孝雄の作曲の才能は、谷村新司のそれに全く引けを取らない。私個人としては、谷村曲より堀内曲の「秋止符」「紫陽花」等が大好きである。他にも

●作詞 小椋 佳 作曲 堀内孝雄

「愛しき日々」

という名曲がある。

〈名曲は永遠に〉

 ビートルズマニアの私としては、自作自演するアリスをビートルズに喩えるなら、谷村=ジョン・レノン、堀内=ポール・マッカートニー、矢沢透=リンゴ・スターのように思える。そして、リーダー格の谷村新司がジョンと同じく最も早く逝ってしまった・・・。ジョンの作った名曲と同様に谷村新司が手がけた名曲は永遠に残っていくことであろう。