マイケルかポールか

・・・・・・・・・・・・・河辺啓二の音楽論(29)

〈映画「マイケル」を観た〉

 
 
 
 
 〈映画「マイケル」を観た〉
  家族や知人にも勧められて、久々に映画を観た。マイケル・ジャクソンを描いた「マイケル」である。彼に関するダークな部分は描かれていないため、一部には批判もあるものの、この映画は大人気を得たようだ。確かにおもしろかった。もちろん、私の好きな「ビリー・ジーン」などの名曲を楽しむことが主因のひとつだが、マイケル役の二人の歌とダンスが素晴らしかった。幼少期を演じた少年も凄かったが、青年期を演じたマイケルの甥は、見事に「マイケル・ジャクソン」を彷彿とさせてくれた。ドラマとしては、マイケルの父のジョセフ・ジャクソンとの確執が強く描かれていた。う~ん、こういう、家族を自分の思い通りにしないと気が済まない父親っているのだろう。息子が世界のスーパースターになってもその姿勢を変えない。映画の最後はマイケルがジョセフと決別する形となって「ドラマ」としての完結性を見せてくれた。 
 
 
 
 
  
 
 
 

 〈大好評だけでもないらしい〉
  大ヒット作の映画となったが、一部専門家にはマイケルの「正」の部分だけを取り上げて「負」の部分が削除されているという批判があるらしい。幼少期から天性の歌声とダンスでスターダムにのし上がったのは確かだが、「負」のものとして、性的虐待(当該シーンは撮影済みだったにもかかわらずカットされたらしい)やビートルズ楽曲著作権買収といった「事件」については全く触れていないということだ。あまりのヒットに続編という噂があるが、もし実現した場合、このようなマイナスイメージとなる問題を扱うのだろうか・・・。
  しかしながら、辛口批評家たちも、マイケルを演じた二人の歌、パフォーマンスについては高評価を与えている。確かにそうだよねぇ。
 〈「ポール・マッカートニー伝」を読んだ〉
 映画「マイケル」を観る前に、藤本国彦という「ビートルズ研究家」の書いた「ポール・マッカートニー伝」を読んだ。366ページもあるやや厚い本だが、毎夜寝床で少しずつ読んで完読した。これだけ厚い書籍だと、普段薄手の本ばかり読んでいる私なら途中脱落しそうだが、ポール大好きビートルマニアだけに最後まで読んでしまった。「伝」というだけに、幼少期~ビートルズ~ウィングス~現在までを10チャプターに分けて著述されている。藤本氏は編集者・著作家・音楽評論家ということになっているが、さすが「ビートルズ研究家」、よくもまぁこれだけのポールにまつわる情報を得ているものだと感心してしまった。少しばかりは私も知っているエピソードも述べられていたが(例えば「ヘイジュード」の歌詞でポールがよくないと思った箇所をジョンが絶賛したとか)。 

〈マイケルは恩を仇で返した?〉

 
 
 

 〈マイケルは恩を仇で返した?〉
 さて、ポールとマイケルの「共演」。1980年代初頭、二人は意気投合し、コラボして、1982年「The Girl is Mine」(ビルボード最高2位)、1983年「Say Say Say」(ビルボード1位)と立て続けに大ヒットを飛ばしている。二人のお互いのアルバムに収録し合うほど仲良しだったのだ。ところが、「事件」が起きる。同著によると、
 「マイケル・ジャクソンが音楽出版社ATVを4750万ドルで買収し、ビートルズのほとんどの曲の版権を手に入れたのである。それを知ったポールの心境はかなり複雑だったようだ。それはそうだろう。マイケル・ジャクソンがポールに曲作りの手ほどきを受けたのち『THRILLER』を制作、アルバムは世界中で大ヒットし、そこからの収益で彼はビートルズの著作権を買い取ったようなものだから。」
 マイケルがとてつもないスーパースターは明白であるが、曲作りに関しては、さすがのマイケルでもポールにかなうはずがない。関係良好で上記2曲を「共演」していた頃のポールの話が書かれている。
 「あの段階でのマイケルは、まだソングライターとは言えなかった。それよりはまずヴォーカリストであり、ダンサーだった。でも彼は『何曲かやろうよ』と言っていたし、僕らもまさしくそのとおりのことをやったんだ」 




 
 
 

 〈マイケルかポールか〉
 たしかに、ヴォーカリスト・ダンサーとしてのパフォーマンスはマイケルのほうがポールより上かもしれない(見聴きして楽しいという意味で)。作曲家としてみれば、(当時の「師弟関係(?)」かも)ポールにマイケルは勝てるとは思えない。
 マイケルの代表曲「今夜はドント・ストップ」「ビリー・ジーン」「今夜はビート・イット」「バッド」などはマイケルの作詞作曲だが、最も有名な「スリラー」は彼が作った作品ではない。どの曲も「ノリ」がいいというか耳に残る多くの人に受ける音楽ではある。しかし、ポールのような、音楽性の「幅」は感じられない。ギターもベースもピアノもドラムも楽器演奏万能のポールだからだろうか。エレキギター主体のハードなロック曲はもちろんだが、「イエスタデイ」「エリナー・リグビー」のようなクラシック音楽を彷彿させる弦楽器曲とか、「レット・イット・ビー」「ザ・ロング・アンド・ワインディング・ロード」のような美しいピアノ楽曲とか、「イエロー・サブマリン」(歌ったのはリンゴ)「オブラディ・オブラダ」のような子供向きソングとか、とにかくバラエティーに富んだ多数の名曲を生み出しているのだ。