「男はつらいよ」も楽しむようになった

・・・・・・・・・・・・・河辺啓二の映画論(7)

<「昭和人間」は昭和の映画が好き>

「水戸黄門」に続き、「私も年を取った」第2弾。

BSテレビ東京『やっぱり土曜は寅さん!』を毎週録画して観るようになってしまった。「男はつらいよ」の映画は、1回か2回くらい、テレビかビデオか飛行機の中でか観た記憶があるが、映画館で観るほどの寅さんファンでもなかったはずだ。しかし、やはり、「加齢現象」なのだろう、なんとなく観始めると、毎週録画するようになったのである。「水戸黄門」同様安心して観ることができる。両作品とも昭和~平成時代に作られたもので、「昭和人間」の私にはとてもなじみやすいストーリー展開なのである。「水戸黄門」は舞台が江戸時代だが、「男はつらいよ」の多くは昭和が舞台。スマホどころかケータイもなく、寅さんが公衆電話で硬貨を入れながら実家の団子屋「とらや」にたびたび電話するシーンは、ノスタルジーでさえある。安旅館に宿泊するシーンも定番だが、その部屋の有様(畳、布団、食卓、日本酒、そして窓際は板の間)も、まさに昭和時代を懐旧させてくれるものである。

<「水戸黄門」との共通性>

水戸黄門と寅さんの大きな共通点は、主人公が両者とも大変お節介であることに間違いない。黄門様は「ご隠居様はいったい何者ですか」と問われると決まって「見てのとおり、ただの隠居、玉に瑕は少々お節介であること」と自らお節介焼きであることを公言している。寅さんのお節介は主にマドンナ相手だが、「とらや」の人たちも巻き込んでマドンナのお世話を徹底的に行うのが定番のストーリーである。

もう1つ、共通点がある。全国各地を行脚していることだ。史実とは異なるが、水戸黄門は、助さん、格さんらをお供に各地を旅する。寅さんも「風の吹くまま、気の向くまま」と言い放ち、北から南へ、南から北へと旅する。画面に映し出される日本各地の懐かしい風景は、なんとも言えない、寅さんシリーズの魅力である。

イマ風の用語で言う「イケメン」とは対極をなす風貌の寅さんであるが、「一緒にいると楽しい」と言わしめるその魅力、人柄から、なぜか美人のマドンナから好かれる。しかし、恋愛成就には至らないというのがお決まりの顛末であり、それが面白くて人気映画となったとも考えられる。

〈絶品なるかな 寅さんの口上〉

雄弁でない私からすれば、寅さんの聞きやすい声と滑舌のよさは素晴らしい限りだ。代表的な口上は(やや下品なところがまた楽しからずや)、以下のとおり。

①けっこう毛だらけ ネコ灰だらけ お尻のまわりはクソだらけ

②粋(いき)なネェちゃん 立ちションベン

(四谷赤坂麹町、チャラチャラ流れるお茶の水、粋な姐ちゃん立ち小便!・・・)

③見上げたもんだよ 屋根屋のフンドシ

④たいしたもんだよ カエルのションベン

なお、③④には、著明な翻訳家による英訳がある。

③I admire you like a roofer’s loincloth.

④You’re as impressive as a frog peeing.

〈寅さんの職業は香具師〉

「香具師」を「やし」と読めた方は凄いですね(漢検1級レベル)。 香具師とは、縁日やお祭りなどの人出の多い所で見世物等を興行し、また粗製の商品などを売ることを業とする者のことである。「てきや」ともいう。映画では、自分のことを「てきや」と言っている。「てきや」(的屋)だと、いかがわしい品物を売る商人というイメージであろう。

ところで、毎回毎回、いろいろと異なる商品を、あの口上で売ろうとしているが、どこでどのようにして仕入れているのか、そのシーンを一度も見たことないなぁ。